【酪農】一酪農家として思う酪農業の良いところ&悪いところ【誰から見たメリット・デメリットか】

酪農業のメリットとデメリット 酪農
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酪農業は世界中で広く行われている農業の一つであり、私たちの日常に欠かせない乳製品を生産するために重要な役割を果たしています。

しかし、当然ながら酪農業には良いところと悪いところがあります。

良いところとしては「私たちの食に欠かせない乳製品の生産、雇用の創出」などが挙げられます。

反面、酪農業は「環境問題や動物福祉」などの問題を引き起こすこともあります。

色々な良し悪しを挙げることができますが、気をつけたい点は「どの視点から」酪農業の良し悪しを見るかということです。

例えば、動物福祉や環境問題という点だけから酪農業を捉えようとすると、「酪農業は悪だ」という一面的な見方となってしまいかねません。また、高収益の牧場を運営している酪農家が「酪農業はもうかっていい」という点だけを見ていると、その陰で犠牲になっている何かを見落とす可能性が高くなります。

この記事では、酪農業の良いところ、悪いところについて、私が酪農家として過ごす中で得た知見を簡単にまとめてみます。

酪農業を様々な視点からとらえるきっかけとなれば幸いです。

私の思う酪農業の良いところ、悪いところ

まず結論として、いくつかの視点ごとに考えられる酪農業の良し悪しを表にしています。

細かく見れば過不足もあるでしょうが、大枠をつかむ材料にはなるでしょう。

視点良いところ悪いところ
❶酪農家技術力や経営ノウハウがあれば高い収益
牛が好きな人にとっては天職
長時間労働
休みが少ない
ケガのリスク
トラブルに振り回されることが多い
地域への配慮が必要
❷酪農
従業員
安定した雇用環境
動物と関われる仕事
賃金が低い傾向
ケガのリスク
魅力的な求人が少ない
➌消費者牛乳、チーズ、アイスなど乳製品
牛乳は高い国内自給率
食育の場になりうる
現場との隔たりが大きい
❹牛バランスのとれた食事をいつでも摂れる
風雨から守られる環境
捕食者に襲われる危険がない
家畜化されたことで種の存続に繋がっている面
分娩後間もなく子牛と引き離される
動物福祉やカウコンフォート上の問題
経済動物としての生涯
牧場ごとに牛の扱いが異なる
❺経営自給飼料生産や6次産業化などとれる選択肢は多い
*やる気と学習が必要
同業者間の競争意識が薄く、相互扶助しやすい
設備投資や修繕の負担が大きい
飼料費や生乳需給など外部環境の影響が大きい
参入障壁の高い業界で競争は激しくない
❻地域社会放牧や牧草地ののどかな景観
産業としての存在感(関連産業)
地域の雇用の受け皿
家畜排泄物の環境負荷
メタンガスによる地球温暖化の懸念
臭気の問題

以下、個別の視点ごとに文章で簡単に説明していきます。

❶酪農家目線での酪農業

良いところ

飼料設計や繁殖管理など高水準の牛群管理、仕入れ先の工夫、高い作業効率などの条件が整えば、酪農業は高い収益性を実現できます。簡単に言ってしまえば、「うまくやっているところはかなり儲かっている」ということです。

また、牛が好きな人にとっては「牛とともに生計を立てることができる」天職といえるでしょう。

悪いところ

悪いところは、よく「酪農業といえば…」という感じでイメージされるように、長時間労働、休みが取れない、ケガのリスクが高いといったことがあります。よく3Kといわれるような内容ですね。

また、牛の難産で真夜中に対応が必要になったり、機械の故障で搾乳ができず急いで修理しないといけないといったトラブルが一般にイメージされるよりもかなり起きやすく、ストレスを生じやすいという面は見逃せません。

牛糞の処理や、臭気の発生など、地域への配慮に頭を悩ませることもあります。

❷酪農従業員目線での酪農業

良いところ

従業員という立場で酪農業に携わる場合は、その安定した雇用環境が魅力となります。経営者として酪農家になってしまうと、莫大な初期投資で借入を起こしたり、経営環境の変化によって一生懸命働いたのに赤字になったりという不安定さを引き受けることになります。

動物が好きな人にとっては、動物園や観光牧場での就職が難しくても、酪農の牧場では働き口を見つけやすいといったメリットがあります。

悪いところ

一方、他産業の求人と比較して給料が安かったり休みが少ないといった課題もあります。

体の大きな牛や、機械を扱うためにケガの危険があるという点もデメリットといえるでしょう。

➌消費者目線での酪農業

良いところ

消費者目線で酪農業を考えると、牛乳やチーズといった食卓に欠かせない乳製品を提供してくれる産業といえます。

アイスクリームや生クリームが好きな人にとっては「なくなっては困る産業」といえるのではないでしょうか。

また、安心のために国産の食べ物を買いたいという消費者には、高い国内自給率を誇る牛乳は良い選択肢となります。

酪農教育ファームなど、消費者の見学を受け入れている牧場などは食育の場としても機能しています。

悪いところ

消費者と酪農業の現場には大きな隔たりがあります。

家畜伝染病などの懸念から「関係者以外立入禁止」の看板を掲げる牧場は多く、消費者からすると生産の現場がどのようになっているかわかりません

❹牛目線での酪農業

良いところ

個々の牛から考えると、牛舎ではバランスのとれた食事をいつでも摂れ、風雨からも守られます。もちろん、捕食動物に襲われることもありません

また、牛という種から考えると、家畜化されたことで種の存続に繋がっているということもいえそうです。これは世界的ベストセラーとなった本『サピエンス全史』における「地球上でもっとも繁栄している生物は人ではなく、人を家畜化した稲や小麦である」という指摘から思い至ったことです。

悪いところ

牛にとって悪いところというのは、特に個々の牛目線で考えた時に問題となります。

分娩後間もなく子牛と引き離されるといった動物福祉やカウコンフォート上の問題はずっとついて回ります。

そして、経済動物として扱われるが故に寿命を迎える前にその生涯を終えることが常です。

牧場ごとに牛の扱いが異なるという点も見逃せません。平たくいえば「牧場によって当たり外れがある」ということです。一頭一頭の牛を非常に大切に扱う牧場から、経済動物としてしか扱わない牧場まで様々あります。

❺経営目線での酪農業

良いところ

経営目線で酪農業の良さを考えると、「自給飼料生産や6次産業化などとれる経営上の選択肢は多い」ということがあります。特に都府県では「海外産の牧草を購入して与え、生乳を搾ってそのまま出荷する」という形態が多いのですが、違った選択肢もとれるのです。北海道ほどまとまった牧草地を確保することは容易ではありませんが、自給飼料の生産に取り組んで飼料費を低減させることは可能です。

また、6次産業化によってチーズやジェラートの販売に取り組む酪農家さんもいます。6次産業化は成功事例が実は多くなく、行政で推奨されるほど安易に手を出すべきではありません。ですが、小売やマーケティングなど日々の酪農作業とは違った分野を真摯に学ぶことができれば、自農場で搾った生乳による自社製品を直接消費者に届けられるということで、得られるものも多いでしょう。

酪農業では同業者間の競争意識が薄く、相互扶助しやすいという点も良さとしてあります。大部分の酪農家が生乳生産に集中しており、販売は酪農協に委託しているというビジネスモデルにより、同業者間でシェアを競うということが起こりにくいためです。

地域の酪農家による組合活動、会食、情報交換、牧場見学の受け入れなど、お互いに協力しやすいという特徴があります。

悪いところ

経営目線で見た時に厳しいのは、まず設備投資や修繕の負担が大きいことです。牛舎そのものやトラクター、自動給餌機、搾乳設備など酪農で必要な設備投資は一つ一つの金額が大きくなります。マーケットが大きいわけではないため、設備販売側の価格競争が起きにくいため、新規の購入のみならず修繕も単価が非常に高い傾向にあります。酪農経営の圧迫する大きな要因の一つとなっています。

また、飼料費や生乳需給など外部環境の影響を受けやすいという面もあります。市場や相場に経営が左右されやすいということです。これは酪農の基本的なビジネスモデルによるところが大きいでしょう。

また、この点を悪いところとするかどうかは見方次第なのですが、「参入障壁の高い業界で競争は激しくない」という点があります。新規で酪農業に参入しようとすると莫大な初期投資が必要となり、その資金をどう確保するかや、広大な土地を用意できるかといった問題が浮上します。こうした事情により、酪農業は参入障壁が高い業界だといわれることがしばしばあります。加えて、酪農協への生乳出荷により、同業者間で販売シェアを競い合うことが基本的にないため、競争原理が働きづらく平時は淘汰が進みにくい傾向にあります。結果的に業界の進歩性が低下し、昨今のような厳しい経営環境に陥った時に対応が追い付かず、廃業が続出するということが起きてしまいます。

❻地域社会目線での酪農業

良いところ

放牧や牧草地ののどかな景観は地域の人やそこを通りすがった人の気持ちを安らげてくれるでしょう。

産業としての存在感もあります。酪農業には、酪農家以外にも、削蹄師、獣医、農協職員、飼料や動物医薬品の販売業者、機械の修理業者、ミルクローリーの運転手など様々な人が関係するためです。

地域の雇用の受け皿という面も重要です。酪農業は市街地から離れた場所で営まれることが多いため、そうした地域での雇用を生む貴重な存在となりえます。

悪いところ

反面、地域や社会から見て良くない点もいくつかあります。よくメディアで目にするのはこれらが多いのではないでしょうか。

まず、家畜排泄物の環境負荷が挙げられます。乳用牛の糞尿は量が多く、酪農家自身もどうさばくか腐心していることが多いです。地域の稲作農家さんや畑作農家さんと耕畜連携を進められれば理想的です。

メタンガスによる地球温暖化の懸念もあります。「牛のゲップが…」とよくいわれています。

地域にとって問題となりやすいのが臭気です。酪農業を営む上ではどうしても臭いの問題は避けられません。コーヒーかすの利用など様々な対策が提案されているため、地域の人々へ負担をかけない経営姿勢が求められています。

まとめ:酪農業の良し悪しを論じるときは多面的な見方をしよう

今回は酪農業の良し悪しについて、色々な視点から見てみました。

どの視点から見るかで、「酪農業は良くも悪くも見えてくる」ことを実感していただけたのではないでしょうか。

様々なメディアで酪農業についての論説を目にすることがありますが、どんな目線から語っており、結論までの論理が飛んでしまっていないか(例:酪農業の○○という面が良くない。だから酪農業は悪だ。など)といった点を是非意識して読んでみてください。

一面的な見方をせずに、多面的に酪農業を見ることで「より意味のある考え」を持てるようになります。

それを踏まえた上で、「中でも自分自身はどの視点により重きを置くか」といった順番で考えることができれば、独り善がりにならない意見を持てるようになるのではないでしょうか。

あらためて、この記事で考察した表を載せておきます。

視点良いところ悪いところ
❶酪農家技術力や経営ノウハウがあれば高い収益
牛が好きな人にとっては天職
長時間労働
休みが少ない
ケガのリスク
トラブルに振り回されることが多い
地域への配慮が必要
❷酪農
従業員
安定した雇用環境
動物と関われる仕事
賃金が低い傾向
ケガのリスク
魅力的な求人が少ない
➌消費者牛乳、チーズ、アイスなど乳製品
牛乳は高い国内自給率
食育の場になりうる
現場との隔たりが大きい
❹牛バランスのとれた食事をいつでも摂れる
風雨から守られる環境
捕食者に襲われる危険がない
家畜化されたことで種の存続に繋がっている面
分娩後間もなく子牛と引き離される
動物福祉やカウコンフォート上の問題
経済動物としての生涯
牧場ごとに牛の扱いが異なる
❺経営自給飼料生産や6次産業化などとれる選択肢は多い
*やる気と学習が必要
同業者間の競争意識が薄く、相互扶助しやすい
設備投資や修繕の負担が大きい
飼料費や生乳需給など外部環境の影響が大きい
参入障壁の高い業界で競争は激しくない
❻地域社会放牧や牧草地ののどかな景観
産業としての存在感(関連産業)
地域の雇用の受け皿
家畜排泄物の環境負荷
メタンガスによる地球温暖化の懸念
臭気の問題

ただし、これも一酪農家の知識や体験に基づいたものをまとめたにすぎません。

ご自身なりの知見を加えて、より精緻な捉え方をするきっかけになれば幸いです。

雑感

最後に余談となりますが、この記事を作成するうえで一番難しかったのが「牛目線での酪農業」をどう考えるかという点でした。

牛を経済動物として扱うことが大前提となる酪農業に身を置いている以上、どうしても人間側に都合の良い見方をしてしまう自覚があったためです。

酪農業における牛をどのように考えるか。時に非常に繊細なテーマとなります。

目下のところ、

  • たとえ経済動物としてでも敬意や愛情をもって接すること
  • 牛の生殺与奪について考えること

を続けることが必要だと考えています。

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