2022年に入り、酪農業界の経営環境が徐々に悪化の度合いを強めています。
主な原因は飼料費の高騰です。
一部の牧場においてこのままだと存続が危ぶまれるという声が昨年頃から聞こえてくるようになりました。そして、私の地域においても最近廃業を決めた牧場が出てしまいました。
コロナ禍以降、様々な業界が苦境に立たされていることが伝わってきます。
酪農業やそれを含む畜産業においてもそれは同様で、強い向かい風が吹き始めていることについて今回は軽く触れてみます。
酪農経営における飼料費の割合は大変に高い
酪農を含めた畜産業において、飼料費は基本的に最大の費用項目になります。
家畜の種類によって差はあるものの、
概ね総費用の40~60%はエサ代が占める
と言われています。
その飼料の価格が、近年右肩上がりで推移しています。
そして、ここ最近の水準というのはいよいよ畜産農家の存続が騒がれるほどのもの。
以下は家畜に与えるエサの重要な部分を占める「配合飼料」の価格動向です。
H17年度(約16年前)あたりから見て、R3年度というのは1.5倍以上の価格推移となっています。
私たちの買う日用品が今よりも50%値上がりしたとしたらどうでしょう。ランチの相場が1000円だったとこが1500円が主流になったとしたら、それが毎日・3食全てそうだとしたら。
感覚的に大変厳しいことが想像できるのではないでしょうか。
そして、実際には、酪農経営をしていて感じる値上がりはエサ代に限りません。
様々な機械の部品やちょっとした消耗品まで、本当に多くのものの購入価格が上がってきています。
株式投資の面でインフレという言葉はしばしば目にしてきましたが、いよいよ酪農業という実生活においてもインフレを実感することとなってきました。
畜産業界全体が苦境に立たされる可能性
酪農業の経営環境が厳しくなっているのはもちろんですが、畜産業界全体が同様の課題を抱えています。
畜産業とはかなり大雑把な言い方をすれば、農業の中の牛・豚・鶏に関する経営のことですね。(実際には養蜂業なども含みもっと広い範囲を包括するようです)
牛・豚・鶏系の畜産業は、いずれも配合飼料をふんだんに使います。だからこそ、この飼料費の高騰というのは非常に痛いというか、場合によっては致命傷となります。
最近私が驚きをもって受け止めたニュースがあります。鶏卵最大手のイセ食品が経営破綻したというものです。国内シェアの10%を占めるという超大型の養鶏業者です。業種が違う私でもその企業名は以前から知っていました。
記事を見るところでは、M&A絡みの過大債務や、飼料費等の生産コスト増により破綻に至ったとのこと。詳細を知りたい方はネット検索ですぐ見つけられると思います。
私の中では、畜産業の大型法人経営体は盤石な経営・運営体制を執っているイメージがありました。従業員の採用に関しても人材を選べたり、飼料等の仕入れにおいても規模の経済を働かせられるなど、随所でアドバンテージを発揮できるであろうと。だからこそ、今回のニュースは衝撃的でした。
畜産業界全体に逆風が吹いていることの象徴的な出来事であるように感じています。
先行き不透明な状況はしばらく続きそう
先行きが楽観視できそうな材料というのはほぼない状況です。
為替についても最近はかなり円安に振れています。円安が進むと海外依存度の高い飼料費はますます上昇する傾向にあります。
正直なところ、今の経営環境が続くと「経営体力の弱っている畜産農家」の廃業が出始めるだろうと感じています。
私自身はまだ悲観的になってはいません。それでも予断を許さない状況が続いていくのだという緊張感を持ち始めています。
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