2022年5月に始めた酪農ジャンルに関する定点観測記事となります。
定点観測記事を始めた趣旨は次のとおりです。
酪農業は多くの方々からは遠い存在です。
一方で、一定数ですが遠いところから酪農に興味を持たれている方もいます。仕事としての酪農に興味がある方や牛乳や牛肉の消費者さんですね。
ですが、その興味関心に十分に応答できている情報媒体はそれほど多くないというのが私の印象です。
なのでこの記事では、
- 一酪農家から見た現在の酪農業界動向
- 私の労働状態・考えていること(酪農業で実際に働いている人間の一事例として)
について簡単に記していきます。
いずれも酪農を仕事とする一個人の私見ですが、酪農に興味を持たれている方に対して現場の声・温度感を届けるという意味で何か参考になればうれしいです。
酪農情勢
景況感
相も変わらず非常に悪いです。
以前から書いているとおり
生乳や牛肉の販売単価の伸び率 <<< 飼料代や機材などの仕入れ単価の伸び率
という酪農業界が抱える構造的苦境が続いているため。
コロナ禍に入ったばかりの頃は、酪農業界はそれほどの悪影響を受けなかったように感じます。
しかし、コロナ禍が長期化するにつれ、少しずつ様子が変わってきました。
休校に伴う学校給食の停止や、外食産業の不振に伴う牛乳需要の減退が顕著になってきたためです。
そんな中、業界の空気感が一変したきっかけがロシアのウクライナ侵攻。
ここから、穀物価格や原油価格が激しく上昇。
原材料価格の高騰分をそのまま生乳や牛肉価格に転嫁できれば酪農業界としてはまだましだったはずです。ところが、実際には個々の酪農家はそのビジネスモデルからして価格決定力を持っていません。
生乳の販売価格は大手乳業メーカーと酪農業界団体との交渉によって決まりますし、牛肉価格は市場の需給で決定されるからです。
平時は顕在化することがなかった一般的な酪農業の収益構造の脆弱性が、コロナ・ウクライナ問題・円安進行・世界的インフレなどなどが同時多発的に起こったことで露呈したかたち。
私の周辺では今年に入ってから数軒の酪農家さんが廃業。経営環境の厳しさが顕在化してきています。
国や県から酪農業界に対する支援策が一部発表されてきています。しかし、全酪農家に対する支援という色合いはほぼないといってよいでしょう。
自給飼料の生産に取り組む酪農家など、支援対象が絞り込まれています。
経営環境的にも、国や乳業メーカーからも酪農家の選別・淘汰が進められている。そうした印象を受けています。
今は護送船団方式が良しとされる時代ではありません。
酪農家目線では厳しい経営環境ですが、そうした淘汰選別を受けることが全業種的に見た時の健全な在り方なのだと思います。
業界が抱えている課題(最近のトピック)
- 飼料費の高騰
- 価格転嫁が期待されるところだった乳価や牛肉相場が不調
- 上記全般を受けて、2022年は多くの酪農家の損益が非常に厳しくなる見通し
- 廃業する酪農家が少しづつ増えてきた
- 行政からの支援策は対象が絞られおり、対応できる酪農家は限定的
業界が抱えている慢性的課題
- 飼料の海外依存度が高く、飼料価格に経営が大きく左右される
- 需給調整が難しく、しばしば生乳廃棄危機が取り沙汰される
- 慢性的な人手不足
- 日本の低成長による相対的魅力度の低下から、外国人技能実習生を年々受け入れづらくなっている
- 人材の定着率が悪い
- 価格決定権に乏しく販売力が弱い
私の労働・考えていること
個人的に最近気になっていること
- ブログ開設頃から迷走していたモチベーションが、人や牧場の体制をめぐる決定的な衝突により、先日完全に折れてしまったこと。
- 自分の力量不足、実力不足を痛感したこと。
- ピープルアナリティクスで自分の牧場を分析した結果、自分と経営者の価値観に決定的な違いがあり、自分が牧場にとっての異分子なのだと感じたこと。
- 経営環境の厳しさが増す中、1年2年先にどれだけの酪農家が存続できているか。
- 外国人観光客の受け入れ再開により、牛乳や牛肉の消費が少しでも盛り返すかどうか。
- 牛をめぐる生殺与奪の論点。
- 酪農業や農業の衰退の根本的原因の一つは、「経営者≒組織論・人事・労務・法務・会計・マーケティング・販売仕入戦略・…を視点として持っている人」が一握りしかいないことではないかということ。
作業中に聴いているポッドキャスト
- a scope~資本主義の未来編~
- よっしーのワクワク天職ゼミ
- 笑い飯 哲夫のサタデーナイト仏教
仕事をしながら、毎日8時間ぐらいはポッドキャストを聴こうと思えば聴くことができます。
最近聞いている番組は上記の3つが中心。
こうしてみると、ジャンルがぐちゃぐちゃですね。ですが、いずれもとても面白い番組です。
笑い飯 哲夫さんの仏教番組は、お笑い芸人さんがパーソナリティを務めていますが、仏教に大変詳しく話術も巧みなので聴きやすくて良いですね。
最後に
2022年10月現在の所感としては以上です。
個人的には仕事(というよりは自農場)に対する自分の在り方がかなり危うい感じなってきましたが、これからそれがどう推移するかも含めこうした記事を更新できていければと思います。
酪農後継予定者、酪農業界で働いてみたい人、消費者として酪農に興味のある人、そのような方々の参考に少しでもなればうれしいです。
引き続き、不定期に(できたら月1回程度)定点観測記事を書いていきます。
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