2022年5月に始めた酪農ジャンルに関する定点観測記事となります。
定点観測記事を始めた趣旨は次のとおりです。
酪農業は多くの方々からは遠い存在です。
一方で、一定数ですが遠いところから酪農に興味を持たれている方もいます。仕事としての酪農に興味がある方や牛乳や牛肉の消費者さんですね。
ですが、その興味関心に十分に応答できている情報媒体はそれほど多くないというのが私の印象です。
なのでこの記事では、
- 一酪農家から見た現在の酪農業界動向
- 私の労働状態・考えていること(酪農業で実際に働いている人間の一事例として)
について簡単に記していきます。
いずれも酪農を仕事とする一個人の私見ですが、酪農に興味を持たれている方に対して現場の声・温度感を届けるという意味で何か参考になればうれしいです。
酪農業界動向
景況感
酪農業の景況感は、2022年から引き続き「非常に悪い」状態が続いています。
ポイントは変わらず、
- 原材料費の高騰と、それを補えない生乳販売価格の小幅上昇
- 生乳需給の緩和
- 各地で酪農家の廃業が断続的に出ており、空気が重い
- 現在の厳しい経営環境が好転する材料が見当たらない
といった点です。
じりじりと経営体力を削がれている同業者が多く、「今の経営環境が長期間続くようなら地域の半分ぐらいの酪農家が廃業せざるを得ないのでは」と漏らす人もいます。
自力でこの局面を打破できるという酪農家はほとんどおらず、「とにかく今は耐えて経営環境の好転をを期待するしかない」という声が趨勢でしょうか。
酪農業界の窮状を説明する資料としては、業界団体である一般社団法人中央酪農会議の「日本の酪農家の85%が赤字経営」がわかりやすいでしょう。
ただし、ポジショントークも含まれているでしょうから中立的な目線で読んだ方が良いかもしれません。
業界が抱えている最近の課題やトピック
- 酪農家の窮状を訴える声を受け、酪農団体と乳業メーカーとの乳価交渉がなお行われている
- 酪農家の廃業が相次ぎ、酪農農協やヘルパー組合など関連組織の再編が迫られている
- 『酪農家の85%が赤字 離農検討は6割』(日本農業新聞、2023.3.18)という見出しが躍る程度に、業界の景況感が悪い
業界が抱えている慢性的課題
- 飼料の海外依存度が高く、飼料価格に経営が大きく左右される
- 需給調整が難しく、増産要請や減産圧力のサイクルにのまれる傾向
- 慢性的な人手不足
- 日本の低成長による相対的魅力度の低下から、外国人技能実習生を年々受け入れづらくなっている
- 人材の定着率が悪い
- 価格決定権に乏しく販売力が弱い
私の労働・考えていること
個人的に最近考えていること
- 外国人技能実習生制度が廃止に向かっていることを好感している
- 制度の建前と実態が乖離する状態が長年続いており、不幸な出来事が起きる温床となっていたため
- 平時から効率的な生乳生産、組織改善を続けてきた牧場が何とか今の難局を乗り越えられるであろう一方、「うちは現状維持でいい」という姿勢を貫いてきた牧場や酪農関連組織が今は苦しんでいるように見える
- 最終的には、①自給飼料生産や自社販売など独自の強みを持つ家族経営体、②スケールメリットを適切に効かせられる法人経営体の2種類が存続し、それらが雇用の受け皿となったり、増頭による生産量拡大を担ったりするのではないかと予想している
酪農作業中に聴いている音声コンテンツ
- オーディオブック
- 『9割の社会問題はビジネスで解決できる』田口一成
- 『起業の天才!:江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』大西康之
- 『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治
- 『農家はもっと減っていい』久松達央
- 『武器になる哲学』山口周
- 『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン
- 『有頂天家族』森見登美彦
- 『Iの悲劇』米澤穂信
- 他、多数
4~5ヶ月ほどかけて、オーディオブックサービスの2強である「Amazon Audible」と「オーディオブック配信サービス – audiobook.jp」の無料体験を試しましたが、前者の方が私には合っていました。
月額料金はAudible(1500円)の方が高いのですが、長い酪農作業時間の中でたくさんの本を聴けるということで、今では納得のうえ課金して利用しています。
定型作業の多い酪農業とオーディオブックの相性が良いということを痛感しています。
経営、組織マネジメント、人間関係に悩む多くの酪農従事者にとって、たくさんのヒントが得られるサービスではないでしょうか。
最近聴いた本の中では、有機野菜農家の久松達央さん著『農家はもっと減っていい』が良かったです。タイトルや表紙のデザインは少々インパクト重視でどうかなという感も否めませんが、内容は素晴らしい。非常に冷静で、農業に止まらない多分野の知識を用いて農業界を丁寧に分析し、ご自身の地に足のついた意見を加えられています。
感情論やポジショントークで論じられることの多い農業ですが、その実情を冷静に捉える上で、今後を考える上で、非常に示唆に富む本といえるでしょう。
農業経営者、農業の後継者、また特に「今の農業に関する論調に違和感を覚えている人」には是非おすすめしたい本です。
↓酪農業や定型的な作業をすることが多い人、中でも向上心や学習欲の強い人にはオーディオブックが本当におすすめです
最後に
2023年5月現在の所感としては以上です。
今回の記事が酪農後継予定者、酪農業界で働いてみたい人、消費者として酪農に興味のある人、そのような方々の参考に少しでもなればうれしいです。
引き続き、不定期に(できたら月1回程度)定点観測記事を書いていきます。
関連記事
前回の定点観測記事です
酪農に興味がある人、酪農業で実際に働いている人など対象者別に「おすすめの本」を紹介しています
「異業種から酪農への転職」というテーマについて説明しています
「人間関係に疲れたから農業・酪農への転職を検討」はおすすめできないという記事です
「酪農業での恋愛・結婚事情」についての記事です
酪農作業をしながら読書を楽しむのに最適なオーディオブックについての記事です
酪農作業をしながら音楽やオーディオブックを聴いたり、通話もできる「Bluetoothヘッドセット」のレビュー記事です