この記事ではエーリッヒ・フロムによる名著『自由からの逃走』から、
- FIREについて得られる示唆3つ
- FIREに活かすための実践案10個
をまとめています。
第二次大戦中に刊行された『自由からの逃走』はやや難解で読み応えのある本ですが、自由について深く考えられる名著です。
FIREや自由の「本質」について考えたい人であれば、読んで後悔することはまずないでしょう。
先に本記事の結論だけまとめておきます。
以下では具体的な内容を説明していきます。
「FIRE」や「自由」について考えたいという人はぜひ最後まで読んでみてください。
本書の概要:「自由の二面性」を分析した社会心理学の本
『自由からの逃走』の概要
本書がFIREへの示唆にも富む理由
本書がFIREへの示唆にも富む理由は
- 自由の持つプラス・マイナスの両面を分析している
- 自由の「マイナス面を克服する方法」を論じている
です。
FIREの本質はまさに「自由であること」。
しかし自由を無条件に礼賛できないことが本書では論じられており、特にFIRE後の展望が何もない場合の危うさを読み取ることができます。
即ち多くの人がモチベーションとしている「会社からの自由」だけを求めてFIREすると、その後に孤独と虚無感にさいなまれ、手にした自由をいずれ自ら放棄して何かにすがる可能性が高そう。こうしたことを容易に想像できる内容です。
とはいえ本書には、そうした自由のマイナス面を乗り越えるためのヒントも出てきます。
FIREの核心である自由について、真剣に考えるのに最適な本です。
『自由からの逃走』から読み取れるFIREへの示唆3つ
ここからは私が本書を読んだうえでの個人的な見解をまとめていきます。
- 自由のマイナス面も理解しておく
- 現在の所属組織がもたらしている正の面も認識しておく
- FIRE後の幸福のカギは積極的自由
①自由のマイナス面も理解しておく
FIREを志向する人は自由のプラス面だけでなく、マイナス面もちゃんと理解しておいた方が良さそうです。
一般的に「自由」は無条件に良いものとして認識されていると思いますし、これを読んでいる人もそうした人の方が多いでしょう。
ですが本書で指摘されているのが自由のマイナス面、すなわち
です。
なんとなくでも想像はできるでしょうか。
FIREの実現は難易度の高いものです。
そのために様々な努力をしてきた人が、早期退職(RE)により所属先と肩書を失い「無名の個人」になった時、必然的に上記のような状態になりかねないということです。
FIREで得られる自由について「○○からの解放」などプラスの側面が語られることが多いですが、同時に「孤独や不安」も抱えやすくなるということは意識しておいた方が良いのでしょう。
一時話題になったFIRE卒業、つまり「FIRE後に生活の目的が曖昧になったことに不足感を覚え再度就職する」という動きは、この自由のマイナス面が作用したものとも考えられます。
②現在の所属組織がもたらしている正の面も認識しておく
FIREを目指す動機が会社や地域社会など「自分を束縛していると感じている対象」からの解放であるなら、その組織や集まりが自分にもたらしている「プラスの部分」にも目を向けておいていいのでは、という内容です。
理由はいつの間にかマイナス面ばかりが気になってしまい、実態以上に嫌なものとして感じてしまっていると、余計なストレスを抱えるためです。
本書では近代人が自由を得る前の時代、つまり自由はなかったけど個人が安定した役割を持っていた時代として「(ヨーロッパの)中世の社会」を例に挙げています。
このような内容が書かれています。
これを今の私たちの生活に少々無理矢理ですが当てはめてみましょう。
会社や地域社会など(場合によっては家族もそうかもしれません)自分を束縛していると感じるものであっても、窮屈さや制限というマイナス面と引き換えに、「そこに属している安心感、安定感」というプラス面も少なからずもたらしている可能性があります。
私自身もそうですがFIREを目指す時、「○○からの解放」を重視していると、その○○の嫌な部分にばかり意識が集中していないでしょうか。
負の感情はエネルギーを湧かせることもあるので一概に悪いとはいえませんが、その○○が自分に与えている正の側面も今一度考えてみても良いと思います。
自由を奪っていると感じるその対象は100%の悪ではなく、何かしらの恩恵ももたらしているということです。
プラスマイナスの両面を捉えて、トータルで考えられるとよりフェアな判断ができるはずです。
③FIRE後の幸福のカギは積極的自由
FIRE後に「満足のゆく自由な生活」を送るには、自己実現的な活動など「積極的な自由」の実現がカギになりそうです。
本書では自由を2つに分類しています。
何か嫌なものからの解放だけを目指してFIREをすると、それは消極的自由の体現であり、いずれ
の2択に迫られることになります。
FIRE後であれば生き方の選択肢は広がっています。
何かわかりやすいもの(金融資産やSNS上の数値など)をひたすら追求するのも、それもまたFIRE後の1つの在り方ではあるように思います。
とはいえ本書が指摘していることはそれこそ「自由からの逃走」であり、つまるところ幸福になれないということです。
であるならやはり「自己実現的な生き方」を模索することが必要になりそうだという点は認識しておく価値がありそうです。
本書を「FIREに活かす」ための実践案10個
ここまでの内容をひとことでまとめると
FIREが○○からの解放という「消極的自由の実現」だけで終わってしまうと、せっかくFIREをしても幸せになれない
ということでした。
では具体的に何をしたらそうした事態を避けられるのでしょうか。
ここでは本書を読む中で私なりに考えた「より良いFIREのためにできそうなこと」を10個、具体的なことからやや抽象的なことまで列挙していきます。
- 「自由になったらやりたいこと」を書き溜めていく
- 個人事業など小さな生業を持つ
- 自分の感情を今よりも素直に認める
- 遺書や辞世の句を書いてみる
- メディアや広告への接触回数を減らす
- 絵や詩の作成、陶芸などに時間を使う
- 家庭菜園や軽い山登りをする
- 過程に満足し、結果は重視しない
- 習い事を始める
- 読書をして教養を学ぶ
①「自由になったらやりたいこと」を書き溜めていく
FIRE後に「自由」を得たらどんなことをしたいか、思いついたタイミングですかさずメモをしましょう。
メモ帳でも良いですし、スマホのメモアプリでも良いです。
理由はFIRE後の「積極的自由」すなわち自己実現的な活動の案を溜めるためですね。
1度で全てを書き出そうとせずに、日々の生活の中で思いついた時にメモして、それを蓄積していくイメージです。
忙しい時は「休みになったらあれをしたい、これをしたい」と次々思いつくのに、いざ休日になるとやりたいことが浮かばず漫然と過ごしてしまう。
このような経験は誰しもするのではないでしょうか。
FIREでそれと同じことが起きないよう、できるだけ「自由になったらやりたいこと」を書き溜めておこうということです。
特に現状に強い不満があってFIREを目指している時ほど、頭がよく回って「本当はこんなことがしたい」といったことを思いつきやすいため、その時期はある意味でチャンスだと思います。
②個人事業など小さな生業を持つ
小さな仕事で良いので生業を持つことが良さそうです。
本書では積極的自由の内容としてしばしば「仕事」と「愛情」の2点が出てきます。
「FIREしてまで仕事?」と思うかもしれませんが、嫌な仕事ではなくあくまで「好きなこと」をして多少の収入を得るということであれば、現在は幅広い選択肢があります。
FIREをした後に根無し草のようになって孤独を感じるよりは、好きな活動(≒仕事)を通じて他者と関わっていく方が幸福感を得られそうだというのは、イメージもしやすいのではないでしょうか。
実際に私自身もこのブログを通してささやかな収入がありますが、半ば趣味のようなものでもあるため、このような活動はFIRE後の生活とも相性が良いだろうと感じています。
好きなことや苦ではないことを通して他者との接点を持てるのであれば、FIRE後の仕事(≒生業)は自己の幸福に十分寄与するでしょう。
③自分の感情を今よりも素直に認める
自分自身の「感情」を今以上に大切にするということです。
私たちの日常生活を思い返しても、「感情を表に出し過ぎない」ということはごく自然になされていますよね。
この感情をどちらかといえば抑え気味な現在よりも、もっと素直に認めた方が豊かなFIRE生活を送れるということです。
感情を大切にするというと抽象的でわかりにくいと思うので、実際にできることとして
などがありそうです。
特にデカルト以降の近代哲学において「理性」が非常に重視されるようになりました。
理性重視の社会で自分が生きていることを意識すればこそ、理性の対となる「感情」をもう少し大切にしても良さそうだと思えるかもしれません。
余談ですが天才数学者の岡潔も、小林秀雄との対談集『人間の建設』の中で感情を重視することの必要性を強調していました。「知情意の”情”を人は疎かにし過ぎである」という内容だったと思います。
感情とは遠いイメージのある数学分野の偉人がこのように指摘をしているのは、大変興味深いですね。
④遺書や辞世の句を書いてみる
やや突拍子もないように感じるかもしれませんが、「遺書や辞世の句」を書いてみるというのも良さそうです。年齢は問いません。
幸福な生活のために感情にもっと目を向けるべきであるなら、その最も抑えられている部分にも少し触れてみることで「今の生」により真正面から向き合えると思ってのことです。
実際、「遺書を書いてみたら、かえって今の生活をより真剣に考えるようになった」という話を見聞きした人も少なくないでしょう。
とはいえ本書でいわれるように、そうした「考えるだけで苦しくなるもの」を忌避する社会の中で生きてきた身として、実際に遺書や辞世の句を書くのは決して簡単ではないと思います。
FIREを実現した後など、自分の人生の終わりについて思いを馳せる時間的、精神的な余裕がある時に考えられると良いですね。
⑤メディアや広告への接触回数を減らす
テレビやYouTube、SNS、それらに付随する広告を目に入れる回数を意識的に減らしましょう。
理由は「価値観や欲しいと感じるもの」を型として無意識のうちに刷り込まれてしまい、「自分自身の価値観」と「社会がそう思わせてくる価値観」との区別がつかなくなってくるからです。
つまり自由からの逃走メカニズムの1つである「画一化」に、気づかぬうちに陥りやすいということですね。
メディアや広告に触れることが日常の一部であったところから、ゼロにするという極端なことまでしようとは思いません。
ですが接触回数を意識して今より減らすことはメリットこそあれ、デメリットはほぼないのではないでしょうか。
本来自分が大事だと考えてこなかった価値観や、本当は欲しくないものを「良いもの」として見せ続けられてしまうと、抱える必要のない焦りや不安に追い回されてしまいます。
⑥絵や詩の作成、陶芸などに時間を使う
絵、詩、陶芸など芸術分野や創造的な活動に時間を使うということです。
人に見せたり必ずしも上達を目指すものではなく、あくまで主眼は自己満足です。
これは本書において自己実現的な活動をしている人の例として、芸術家が挙げられている点から来ています。
FIRE前では時間的、精神的な余裕が少ないため、「お金やスキルに結びつかない素人の芸術活動に時間を割こうと思えない」となりそうですし、実際私はこのように感じてしまいます。
ですがFIRE後のゆとりある時間の中ではこうした活動に取り組むことも可能でしょう。
そしてそれが豊かさにつながりそうだということは、実は多くの人が感じているのではないかとも思います。
⑦家庭菜園や軽い山登りをする
家庭菜園や登山など「自然と関わっていく」こともポイントとなりそうです。
これは近代人が孤独を感じることとなった要因の一つに、自然と分離していったことも指摘されているからです。
孤独というと人間関係ばかりをイメージしてしまいそうですが、自然と疎遠になることも孤独を生むという本書の指摘は新鮮でした。
こうした記述から想起したことが、自由との付きあい方がより重要になるFIRE後において、積極的に自然に触れるということです。
あまり大変そうなことはできないと思うので、まずは
といったあたりからやってみたいですね。
⑧過程に満足し、結果は重視しない
やや抽象的なことですが「過程に満足して、結果は重視しない」というスタイルを意識的に取り続けたいという内容です。
現代のデフォルトの価値観が「結果重視」であるということを認識すればこそ、そうした価値観に引力があることを意識して、できるだけ「過程そのもの」を楽しめると考えています。
⑨習い事を始める
新しく習い事を始めることで、その過程を楽しんだり、創造的な活動による自由の享受が可能だという内容です。
実際問題サラリーマンとして仕事をしている時よりも、FIRE後は良くも悪くも人と関わる機会が減りそうです。
そうした中で習い事を始めれば
という3点を同時にかなえられます。
FIRE後の時間的、精神的な余裕があればこそ取り組みやすいことの一つが「習い事を始める」だと思います。
具体例を挙げると、私が現在興味を持っているのは
- 合気道
- 陶芸
- 絵画
- ワイン、日本酒
- 教養講座
などです。
⑩読書をして教養を学ぶ
「自由」とうまく付きあうために、読書をして教養を学んだ方が良さそう。
本書を読んでいてそう痛感しました。
本書のような人文科学系の本を読むと、今の社会、すなわち「自分を取り巻いている環境」がどういうものなのか推測しやすくなります。
すると自分の立ち位置がわかるため、「自分のこれから」を考えやすくなったり、「漠然とした不安」を感じずにすんだりします。
とはいえ特定の一冊を読めば良いというものでもなく、幅広い分野の本を読んで多面的な見方を身につけられると良さそうです。
具体的には
- 各分野の「名著」とされている本(投資なら『敗者のゲーム』など)
- 岩波文庫の本
などでしょうか。
その他本書にまつわる雑談、雑感
先ほどまでの内容が「『自由からの逃走』とFIRE」という視点でまとめたものです。
以下はFIREとは関係なく、本書にまつわるあれこれを雑多に書いていきます。
本書との出会いは高校の「倫理」
私が『自由からの逃走』を知ったのは高校時代。
教科書こそ配られたものの授業は一切なかった「倫理」を独学した際に知りました。
色々な教科がある中で倫理に惹かれた私は、当時のセンター試験にて授業で習った科目は選択せずに、独学で学んだ倫理を選択して受験したほどでした。
その倫理の教科書の中で
「自由の重荷に耐えられなくなった人々」の心理を分析したE・フロムの『自由からの逃走』は、…
というような記述があり、倫理の中でも最も印象に残っていました。
率直に「自由から逃れるなんてことを本当に人がするのか?」という違和感を覚えたからです。
その後大学生の時に図書館で『自由からの逃走』を借りて読んでみました。
当時は大枠こそつかめたものの、難解で本書の内容を十分には理解できませんでした。
そして今回、十数年ぶりに本書を再読したわけですが、以前よりもかなり内容の理解がしやすかったです。
その理由は
- 働くようになって「社会」に対する関心が強くなっていた
- 歴史系Podcast番組「COTEN RADIO」やAudibleによって歴史や宗教に関する基礎知識が身についていた
ことだと思います。
特に本書の場合は、「中世社会、封建社会、カトリックとプロテスタント、ルターとカルヴァン、資本主義、世界大戦」の最低限の知識を持っていないと、なかなか理解が難しかったでしょう。
高校生の時に知った本を30代になってようやく多少なり理解できるようになったということで、感慨深いものがありました。
現代の生活に対する発見も多い
本記事では主にFIREにつなげる形で本書からの示唆をまとめましたが、FIREは置いておいて、「現代社会」を考察するのにも大変有用な本だったと感じています。
- 自由がなく抑圧や束縛があった代わりに、帰属意識や安定感があった中世社会(A)
- 自由を得た代わりに、孤独や人生の無意味を感じやすくなった近代社会(B)
この2つの対比は、以下のようにスケールを変えることで今の生活を考察するのにも使えそうです。
- (A)地方:人間関係が近く「近所の目」や「ムラ意識」が消え去ってはいないが、帰属感も生じやすい
- (B)都市部:抑圧や束縛を受けにくいが、孤独も生じやすい
- (A)会社勤め:時に人間関係が煩わしく規定等で縛られるが、会社の一員という所属意識を持ちやすい
- (B)フリーランス・FIRE:自由な働き方、生き方ができるが、帰属意識や安定感を得にくい
ここでポイントとなるのは、AでもBでもそれぞれにメリット・デメリットがあるということです。
ややもすると自分が不満を感じている対象のデメリットばかりを見てしまいますが、このようにメリットもあることを認識できれば、不必要に強いストレスを感じずに済むかもしれません。
実際、私も地方に住んでいるため消防団や地域の行事に対して煩わしさを感じることが多かったのですが、「それらが帰属意識や安定感をもたらしうる」と気づいてから、幾分気が楽になりました。
こうした見方をすれば、場合によっては「自由を積極的に謳歌するか、不自由を承知で帰属を求めるか」という判断を自ら選択することも可能です。
自分で選択したことの結果に対しては納得感も生まれやすいですから、トータルで見れば「生きやすくなる」ともいえるのではないでしょうか。
まとめ:FIREの本質「自由」について深く考えるのに最適な本
この記事ではエーリッヒ・フロムによる名著『自由からの逃走』から、FIREについて得られる示唆などをまとめてきました。
あらためて整理すると
でした。
『自由からの逃走』はやや難解で読み応えのある本ですが、自由について深く考えられる名著です。
FIREの表面的なことだけでなく、より踏み込んだ「本質」について思考を巡らせてみたい人であれば、読んで後悔することはまずないと思います。
この記事で興味を持ったなら、ぜひ実際に本書を読んでみてください。
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