2024年もそろそろ年末。自分が今年の1月、2月に何をしていたか思い出すと、あっという間に年末を迎えた感があります。
さて今回は2024年に読んだ教養本の中で一番良かったものを紹介します。
この前は2024年の個人的ナンバーワン小説として角田光代さんの『ツリーハウス』を紹介しました。
2024年の個人的ベスト『人生論ノート』三木清
2024年に読んだ教養本の中で、個人的ベストだったのは三木清『人生論ノート』です。
世界大戦時の日本の哲学者、三木清による哲学エッセイ。176ページとコンパクトです。
FIREをして時間があるため、今年はよく教養本を読みました。数えてはいませんが50~80冊程度でしょうか。
読み方は相変わらず図書館で借りた本やオーディオブック(Audible)です。
『人生論ノート』を読んだのは、たしか佐藤優さんの読書案内本で知ったのがきっかけ
特に良かった点は次の3つです。
- 「幸福」の考え方が整理された
- 短文で本質を突く文章。折に触れて読み返したくなる
- 現代の息苦しさを整理・理解して生きやすくなった
初めはAudibleで読みましたが、あまりにも良かったので手元に置きたく紙の本をAmazonで購入しました。
感想
「幸福」の考え方が整理された
本書の「幸福について」という章と、「成功について」の章を読むことで、幸福についての考え方が非常に整理されました。
よく私は「人生の目的は幸福なのではないか」ということを考えます。ところが、日常生活であまり幸福について論じる言説は見かけません。
それよりも
- いかに学校へ入るか
- いかに有名企業へ入社するか
- どんなスキルを身につけるべきか
- どんな投資をすべきか
そんな情報があふれています。
私もそうした情報に影響されるため、「どうしたら食いっぱぐれないだろうか」や「どんなスキルや資格を得たら将来困らないだろうか」とつい考えてしまいます。
しかし本書を読んでわかるのは、こうした情報はいかに「成功」するかという情報なんですね。そして成功と幸福は違うと。成功と幸福を混同して考えるようになったことで現代人の不幸が始まった、というようなことが書かれています。
実際、その通りだと思います。私も牧場で働いていた頃の収入は多かったですし、大学も一定の知名度があるところを出ることができました。それらは「成功」の概念では扱える一方、「幸福」の概念ではうまく扱えるものではありません。
成功はお金やフォロワー数など数量的に計れるものですが、幸福は主に状態であり、数量で計れるものではないですよね。
私が特に好きな箇所を4つ引用しておきます。
・幸福について考えないことは今日の人間の特徴である。
・幸福を語ることがすでに何か不道徳なことであるかのように感じられるほど今の世の中は不幸に充ちているのではあるまいか。
・成功というものは、進歩の観念と同じく、直線的な向上として考えられる。しかるに幸福には、本来、進歩というものはない。
・成功と幸福とを、不成功と不幸とを同一視するようになって以来、人間は真の幸福が何であるかを理解し得なくなった。
いうまでもなく、FIREの目的は「幸福になること」です。しかし、ややもするとFIRE後にも成功を求めようとしてしまいます。さらなる資産拡大に邁進したり、「世間で良しとされること」にとらわれたり。
本書を読むことで、そうした落とし穴にはまらないための概念整理ができました。
短文で本質を突く文章。折に触れて読み返したくなる
本書の文章は先の引用のように、短文で本質を突いてくる感じのものが多いです。慣れるまでは読みにくさも感じました。ですが、文体に慣れてからはむしろズバッと言い切られる感じがとても心地いいです。
そしてテーマごとの文章量も少なく、とても読みやすいです。例えば「成功について」の章であれば、たったの6ページ。しかし内容は非常に濃いわけです。
こんな感じで他に「死について」、「健康について」、「個性について」など多岐に渡るテーマが論じられています。それで合計176ページですから、本書はほんとにコンパクトだと思います。
FIREに踏み切ってから、幸福について考え直してみようと思い立ち、まずは幸福論を学ぼうとしました。三大幸福論として、アラン、ラッセル、ヒルティの幸福論が有名なわけですが、本を見ても読みにくさを感じていました。それで結局後回しに。
そんな中で本書を読んだところ、とても読みやすく、かつ内容も素晴らしかったという感じです。
文庫本は薄くて軽いため、外出時に持ち歩いて読み返しています。電車に乗っている時や、人を待ったりする時にちょうどいいです。
現代の息苦しさを整理・理解して生きやすくなった
本書を読んだ効用の一番は、何よりも「生きやすくなった」ということです。
もともと考え過ぎたり、取越し苦労をしがちだったりという性格のため、私の人生観は「人生ハッピーだよね」みたいな感じではありません。過度に悲観することもありませんが、決して楽観主義者ではないという感じです。
そんな自分には、響くものばかりの内容でした。
おわりに
今回は2024年に読んだ教養本の中で一番良かったものとして、三木清の『人生論ノート』を紹介しました。
ちなみに三木清は、『嫌われる勇気』やアドラー心理学で知られる岸見一郎氏もよくとりあげる人物です。『嫌われる勇気』の方が知っている人が多いと思いますが、本書もぜひ読んでみてはどうでしょうか。
薄くて読みやすいけど、内容は濃く、一筋縄ではいかない。そんな魅力の詰まった本です。
Audibleで聴いて読んでみたいという人はこちら
なお本書を読む場合、上記のリンクから買っていただけると寒い夜に時間を割いて記事を書いた身としては一番うれしいですが、実際のところ本書は青空文庫で読めます。
「人生論ノート 青空文庫」と検索すれば、無料ですぐに全文を読めます。自分のささやかな収入にこだわるよりも、「もっと本書が読まれて読んだ人の人生観や価値観をほぐれてほしい」との気持ちから、併せての紹介です。
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