2024年も残すところ3か月。秋っぽさを感じ始めたばかりですが、10月という数字を見ると、年末もそう遠くはありません。
今回は2024年に読んだ小説の中で一番良かった小説を紹介します。
2024年の個人的ベスト『ツリーハウス』角田光代
さっそく該当する作品の紹介。
角田光代さんの『ツリーハウス』です。『八日目の蝉』という作品が特に有名な著者ですね。
紙の本やオーディオブック(Audible)で、今年も30冊以上の小説を読みました。
今年一番良かった小説はどれかな……?
こう考えた時、悩む間もなくすぐに思い浮かんだのが本書。それぐらい良かったです。
何がそんなに良かったかというと、次の3点
- 読み始めの「この小説大丈夫かな…」という不安から、「すばらしい小説を読めて本当に良かった」という読後感までのギャップ
- 登場人物のリアリティある苦悩
- 世界大戦中の満州から戦後日本まで、描かれる時代背景のスケールの大きさ
大衆小説なので俗っぽさはもちろんありますが、その域に全く収まらない小説でした。
感想
自分とよく似た登場人物に感動
登場人物の描かれ方は特に秀逸でした。
主人公から見た叔父さんの1人は自分とかなり似ています。その弱さがこれでもかと描写された部分には、切なさ、苦々しさ、やるせなさと同時に、憎めなさも感じました。
似ている部分というのは「知識偏重で学力に対するプライドが高い一方、人づきあいが下手で変にピュア」なところです。
本当に深いところまで感情移入できました
戦後の日本や自分の家族に思いを馳せる
この本を読んでから、戦後の日本、特に東京についてのイメージがけっこう変わりました。
普段のイメージは「地方出身者が実は多いと揶揄もされるが、そうはいっても大都会」。
ですが本書を読んでからは「敗戦後の土地の権利関係なんかがメチャクチャな中、地方から流れ着くようにしてそこに根付いていった人々とその子孫が一部を構成する都市」に変わりました。
関連して、「先祖や家(物理的な建物ではなく家系)を大切にしろ」という風潮が特に地方部において残る昨今、
その家というのも大戦中にバラバラになったところが多いなら、多くは今がせいぜい3~4代目。何十代も続いているわけじゃない。自分のように「家の跡継ぎ」的なポジションにいて息苦しさを感じる人は、それを認識するだけでも多少気が楽になるのでは……?
と思えるようになりました。
家父長的な枠組みがまだ残っている中、「長男だから」という理由だけで気づかずがんじがらめになっている人は案外多いというのが私の印象です。自分もそうです。
本書を読んでその重荷が少し軽くなった気がしました。
読み始めは不安になった
本書の読み始めは、出てくる人物たちが、自分からすると「うわあ…」となるタイプばかりでした。
この本はハズレだったかな……?
正直そう思っていたほどです。
ですが読み進めるうちに、わりとすぐ引き込まれ、そこからはもう大丈夫。ストーリーの面白さに加え、最初は印象の悪かった登場人物たちの過去や内面が丁寧に描かれていくことで、「本当は魅力的な人物ばかり」だと印象が変わっていきました。
Audibleで聴いたのが良かった
私は本書をAudibleで読了しました。
個人的にはこれが良かったです。ナレーターがとても上手で、話に自然と引き込まれたからです。読み始めで本書が面白いのかどうか不安になりながらも読み進められたのは、オーディオブックだったからというのも大きかったでしょう。
ナレーターは男性1名のみ。この方が女性の登場人物の声も演じています。
レビューを見ると女性役(若年女性からこうれいのおばあちゃんまで様々)の声色に対して厳しい意見もありましたが、私としては「十分」でした。
自分の中で大当たりだった本書。
今度は紙の本でもじっくり読んでみようと考えています
ビジネス書や哲学本は別として、私は一度読んだ小説はあらすじがわかっているため、通常二度読むことはありません。それでもオーディオブックから紙へと媒体を変え、再読したいと思えているほどに本書は良かったです。
おわりに
今回は私が2024年に読んだ小説の中で一番良かったものとして、角田光代さんの『ツリーハウス』を紹介しました。
読んで数か月が経ちますが、今も時々思い返しています。一度読んだら忘れてしまう本がほとんどですが、こうして何度も頭に浮かんでくる本は「本当に良かった本」だと思っています。
ようやく秋らしくなってきたところです。秋の夜長に本書はいかがでしょうか。