「酪農業ではどういったスキルが身につくか」というテーマです。
全4回中の今回は最終4回目に当たります。
- 酪農業で働いてみたいけど何かスキルは身につくのか
- 酪農の仕事と自分が合わなかった時に、転職でアピールできそうなスキルは身につくのか
- 酪農に従事しているが普段どんなスキルが身についているのか考えたことがない
こうした方々がいるのではないかと考え、このトピックを取り上げています。
私自身、金融機関での勤務経験と酪農業での勤務経験とがあります。酪農のみを経験している場合よりは観点が一つ多いため、参考にもしていただきやすいと思います。
経済産業省が公表している「社会人基礎力=社会人としての基礎スキル」が、酪農業において
- どのような場面で
- どんなスキルが身につくのか
考えてきました。

なお、
- 私の体験や同業者から日頃聞く話を基に判断している
- 牧場の規模の大小、経営方針や運営体制により一口に牧場といっても千差万別である
- 基本スキル中心で、専門スキルにはあまり立ち入らない
これらの点にご留意ください。あくまで大枠での話になります。
まとめ・結論
このテーマの第1~3回で見てきた通り、やはり酪農業においても12項目のスキルは全て身につけることが可能です。
ただし、酪農業を仕事にしていれば自然と身につきやすいスキル、比較的身につきやすいスキル、意識しないと身につきづらいスキルとがありました。
- 課題発見力
- 計画力
- 情況把握力
酪農業では牛や機械、時には人にまつわる課題が視覚情報として目に入りやすいため、課題発見力やそれを解決するための計画力が身につきやすいです。
また、従業員数は数名~多くても数十人という規模の牧場が多いです。そのため働き始めて数年経てば、牛群の動きや施設・機械の状況、人の動態など牧場全体の様子が分かるようになります。すると、状況把握力も自然と身につきやすいですね。
- 主体性
- 働きかけ力
- 実行力
- 発信力
- 傾聴力
- 柔軟性
- ストレスコントロール力
これらのスキルは少し意識したり、ちょっとしたきっかけがあれば身につきます。酪農業ではそのための環境は揃いやすいですね。
- 創造力
- 規律性
ルーチン作業が多い酪農業では、意識しないと創造力は身につきにくい傾向があります。
また、ルールでガチガチの牧場というのは私が見聞きする限りではあまりないので、規律性についても自分を律する意識を持った方が身につきやすいでしょう。
補足1~専門スキルの例など~
今回は、社会人としての基礎スキルに焦点を当ててきました。
しかし、社会人としてのスキルには基礎スキル以外にも、重要なものとして専門スキルがあります。
参考程度に、酪農業で身につけることが可能な専門スキルの一例を、私の思いつく範囲でですが列挙してみます。
ただし、主に資格やそれに近いものとしてカテゴライズできるもののみです。搾乳技術なども専門スキルですが、線引きしないとキリがないので今回は割愛します。
- 家畜人工授精
- 家畜受精卵移植
- 削蹄
- 中型トラックや大型トラックの運転技術
- トラクターの運転・操作技術
- フォークリフトやスキッドステアローダーなど重機の運転・操作技術
- 語学 ※職場の同僚に外国人技能実習生がいる場合
補足2~転職で必要性が高そうだが酪農では身につけ難いスキル~
「転職の際に役立ったスキル」といった記事でよく挙げられているものの、酪農業では身につけにくいスキルがあります。
ITスキルです。
酪農業でもパソコンやITは必須ですが、それよりもまずは現場での作業が第一かつ主要です。パソコンやITに触れる人員は、それぞれの牧場の中でも一部でしょう。
エクセルを使って農場で蓄積したデータを分析したり、取引先とメールでやり取りしたりといったことはあります。ですが、オフィスワーカーと比較すると、やはりITスキルというのは圧倒的に身につけにくいスキルといえます。
このスキルを身につけたいという人は主体的に身につけにいくしかないですね。牧場運営を向上させることに結びつけながらやれば、牧場の中でも評価を得られるでしょうし、自身のスキルアップにもつながると思います。
記事作成を通して自身を振り返って
日々の酪農作業に肯定的になれた
今回のテーマは、
- 酪農に興味がある方、
- 酪農で働いている中でスキルが身についているか不安になる方
が一定数いるだろうということで書いてみました。
しかし、作成を通じて自分自身を顧みる良い機会ともなりました。
日々のルーチン作業中心の生活に自身が埋没してしまう中で、自分は果たして何かしらでも成長しているのだろうかと思うことがしばしばありました。
そもそも、成長することが善なのか、効率化社会・進歩主義・啓蒙主義的思想の中で人は成長するべきものだという思い込みに囚われているのではないか、という問いもありますがここでは本筋と関係がないので考えないことにします。
話を戻します。
酪農業における自身の成長に懐疑的でしたが、少なくとも社会人としての基礎的スキルは日々身につけられているのだということが分かりました。現状を多少なり肯定的に見られるようになったという点で非常に良かったです。
万が一、転職を考える場合にはこれらの基礎スキルは概ねアピールできます。転職希望先に必要な専門スキルを追加的に身につける努力をすれば良いのだということで、ステップが明らかになった感じがしますね。
金融機関との差
せっかく前職の金融機関勤務の経験があるので、そちらとの比較も軽く考えてみます。
- 発信力
- 柔軟性
- 規律性
- 主体性
- 働きかけ力
- 実行力
- 計画力
- 創造力
- 傾聴力
- ストレスコントロール力
- 課題発見力
- 情況把握力
私の場合はという条件付きですが、金融機関勤務の経験からは上記のようにいえそうです。
酪農との違いは、職場の組織力や人数です。
従業員数が多く部署やチーム単位で仕事をすることが酪農との違いを生み出します。
多様な人とコミュニケーションをとる機会が多いため、発信力や柔軟性が身につきます。組織のルールもしっかり整っており、相互監視もはたらくため規律性も身につきやすいです。
一方、組織が大きくなるため自分のチームや部署の様子や構造はわかるが、組織全体のことが把握しづらいです。つまり、課題発見力や状況把握力は身につけにくい印象があります。管理職ポジションまで上がればそうしたスキルも身につくでしょうが、いずれにしろ時間がかかります。
ざっくりとですが、酪農業とは対照的な基礎スキルが身につきやすい傾向でしたね。
雑感
その他、このテーマを通して感じた雑感です。
- スキルをラベリングして日常業務を当てはめてみることで「酪農でスキルは身につくか」という視点がクリアになった。名づけ、ラベリングの効用を実感。
- ぼんやりと働いてもスキルは身につかないかもしれないが、目の前のこの仕事でこのスキルが身につくんだという意識があるだけで成長性・モチベーションが変わりうる。
- 酪農という一見単調な作業体系の中でも、身につけようと思えば身につくスキルは意外と多い。場は用意されているので、自らその機会を獲得しに行くかどうかが肝要。
おまけ
↓酪農業に転職された方が描いたマンガです。酪農の日常が分かりやすく、リアルに描かれています。酪農ってどんな感じなんだろうというイメージはかなり具体的に持てるようになります。私は就農後に読みましたが、共感できること、酪農あるあるがたくさんで面白かったですね。
↓実際に酪農を仕事にする方向けの教科書的本です。私も酪農の基礎知識はこの本で学びました。
の会員である方や無料体験を利用すると書籍の購入に便利ですね。

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